火を守る日 ― 二つの影と、二つの光
― 院長メッセージ・静けさシリーズ ―

午前の陽が差し込みはじめた頃、TKさんが静かに施術室へ入ってこられました。
「いつもと同じです。」
その言葉の奥には、長い年月でつくられた“鉄の静けさ”のようなものがありました。
ただ、左の股関節に残るシビレ、首の左右が日によって入れ替わる痛み、そして「腰が頑張っている」という言葉。
――体は、黙っていない。
営業という世界で、何度も何度も心を擦り減らしながら、それでも前に進んできた足跡が、そのまま身体に刻まれていました。
新人時代のことをお聞きすると、TKさんはほんの少し、昔の自分を思い出すように目線を落とされました。
「肺が締め付けられるような感じと、お腹がモヤモヤする感じですね。」
胸と腹――第2と第3チャクラに刻まれた、“当時の自分が耐えた痛みの名残”がそこにありました。
僕はそっと、その痛みの記憶に手を添えるように触れました。腰にも、そしてかつてのTKさんにも、「ありがとう」と静かに光を向けました。
光は、胸から腹へ流れ、緊張の輪郭をやわらかく溶かしていくようでした。
施術の終わり、TKさんの表情に、ふっと力が抜けたような“和み”が広がっていました。
――鎧の奥で、魂が先に安心したんだ。
そう感じた瞬間でした。
午後、OAさんが少し早めに来られました。呼吸が少し速い。けれど表情はいつもの通り、落ち着いている。
体は正直だけれど、心はほとんど揺れを見せない人。静かに、強く、閉じている。
仕事の話、街の話、お店の状況の話をされていても、そこには“怒り”の影も、“悲しみ”の波も見えません。
ただ、その冷静さは、本当の意味での「平然さ」ではなく、“諦めた思考”がずっと語り続けている静けさでした。
話が続く中、ひとつだけ、体が嘘をつけなかった瞬間がありました。
――親指と人差し指をグッと押し合わせる仕草。
その一瞬の強さが、OAさんの中の「幼い彼」がずっと抱えてきた、静かな怒りを教えてくれました。
だから僕は、自分の胸の奥にいる幼い自分にも光を送りながら、OAさんの胸と腹…第3・第4チャクラへ静かな温かさを届けました。
怒りを爆発させるでもなく、涙を見せるでもなく、ただ静かに――幼い彼の胸が、少しだけ緩む感覚がありました。
そのあと続いたネガティブな話は、もうOAさんの“思考の惰性”であり、施術の本質とは別の流れでした。
僕は、「火を守る整体師」として、できるだけの灯を渡せたと思います。
その日の施術を終えると、僕自身の意識も、少しずつ深い眠りへ引き込まれるように静まりました。
魂を扱う施術の後に訪れる、独特の“微睡み”のような時間。
それは、僕の内側の火が、ふたりの痛みと静かに共鳴した証。
そして今日、TKさんとOAさんという、まったく違う2つの影と2つの光を抱えた人たちの施術を通して、僕は確かに感じました。
――魂は、触れられる前に、もう安心する方向を選んでいる。
その瞬間に寄り添えること。
それが僕にとっての整体であり、この道を歩いてきた意味そのものだと感じます。
今日の施術は、静けさの中に灯る“火”が、ふたりの人生と僕自身をやわらかく照らすような一日でした。
