灰色の胸と、灯った火

静けさシリーズ:灰色の胸と、灯った火

胸の奥の、小さな火がそっと灯る

人は、どんなに重たく見えるときでも、胸の奥には必ず「小さな火」が灯っています。
それは、その人が歩いてきた道や、大切にしてきた思いの証でもあります。
今日は、そんな“胸の火”に触れた一日のお話です。

夕方の静かな時間に、ひとりの男性が整体院 福粋を訪れました。

右肩の痛みを抱え、表情には疲れと苛立ちが混ざっているように見えました。
ベッドに横になっていただき、お身体の状態をうかがいながら何気なくみぞおちあたりに目を向けたとき、私はそこが「灰色に膨らんでいる」ように感じました。

それは、長く押し込めてきた感情やプレッシャーが行き場をなくして溜まっているときに、ときどき現れる色と膨らみ方です。

お仕事のこと、従業員さんのこと、自分で全部抱え込んでしまう癖。
「ストレスありますよ!」と苦い顔で話される言葉の奥に、誰にも言えずに抱えてきた重さがにじんでいました。

言葉があふれてくるのを聞きながら、私は深く同調して飲み込まれてしまわないように、ただそっと彼の胸のあたりに「ひとすじの静けさ」を置くような意識で、淡々と施術を進めました。

第1チャクラから順に光を集め、第3チャクラ、そして胸のあたりにも意識を向けていくと、灰色の膨らみはゆっくりと輪郭を変え、少しずつ色を取り戻していくように感じられました。

やがて、胸の奥に灯っていた「小さな火」が、はっきりと見えてきました。
それは、どれだけ大変な状況でも仕事を続けてきた彼の、誇りや責任感の源のようにも感じられました。

施術が終わるころ、彼の表情はわずかですが、来院されたときよりも柔らかくなっていました。
動かしたときの痛みはまだ残っているようでしたが、心の奥の「圧」がひとつ抜けたような感覚がありました。

引き戸を勢いよく閉めて帰っていかれたあと、私は自分自身の胸の中を静かに観察してみました。
重さは、思ったほど残っていません。

「あれ? 意外とあとを引かないなぁ……」

それは、お客様の重さをそのまま自分の中に抱え込まず、「私の中心は私の中心のまま」にしておける時間が、以前よりも長く、深く保たれるようになってきたサインでもありました。

今日の施術は、目の前のNYさんのためだけではなく、
「重たいエネルギーの中でも、自分の静けさと中立を保てるか」
という、私自身へのレッスンでもあったのかもしれません。

灰色に膨らんで見えたみぞおちと、そこから浮かび上がってきた胸の火。
その両方をそっと見守りながら施術を終えたあと、私はあらためて感じています。

どんなに重たく見える人の中にも、かならず静かに灯っている火がある。
そして私の役割は、その火を「無理に大きくすること」ではなく、
ただ、その火が自分の力で燃えやすくなるように、そっと周りの灰色をほどいていくことなのだと。

🌿 今日の一言
重たく見える胸の奥にも、静かに灯る火がある。
その火は、誰かに燃やしてもらうのではなく、本人の静けさの中で、自然と息を吹き返していきます。

― 院長より ―
灰色に見えるときも、火が小さく見えるときも、どうか焦らなくて大丈夫です。
あなたの中心には、消えることのない静かな光が必ずあります。
その光が、またあなたのペースで息を吹き返す日を、私はそっと見守っています。